脱臭装置を導入したにもかかわらず、想定よりも早くフィルターが目詰まりしたり、脱臭効率が急激に低下したりするトラブルは少なくありません。
その原因の多くは、排気ガスに含まれる粉塵やオイルミスト、水分といった「同伴物質」が脱臭ろ材に直接到達してしまうことにあります。
本記事では、脱臭装置の前段に設置すべき前処理フィルター・前処理装置の種類と選び方について、同伴物質の性質やメインの脱臭方式との組み合わせを踏まえて解説します。
脱臭装置の中核をなす活性炭やセラミックフィルター、触媒といった脱臭ろ材は、空気中の「ガス状の臭気成分」を吸着・分解するために設計されています。
しかし実際の排気ガスには、ガス状の臭気だけでなく粉塵、油滴、水滴などの「粒子・液滴」が混在していることがほとんどです。
これらの同伴物質がろ材に直接接触すると、微細な吸着孔が物理的に塞がれてしまい、臭気を吸着するための有効面積が急速に失われます。結果として、カタログスペックでは数年の交換寿命が想定されていたフィルターが、わずか数ヶ月で交換を迫られるケースも生じます。
前処理装置を設置せずに脱臭装置を運転した場合、以下のような問題が現場で発生します。
こうしたトラブルを未然に防ぐために、メインの脱臭装置の前段で同伴物質を除去する「前処理」工程の設計が不可欠です。
排気に含まれる同伴物質は、大きく3つの形態に分類できます。物質の形態(固体・液体・粘着物)によって有効な前処理技術が異なるため、まずは自社の排気にどのタイプが含まれているかを特定することが対策の第一歩です。
木工、金属加工、食品粉体搬送、産業廃棄物の破砕工程などで発生する固体の微粒子です。
粒径が大きいもの(数十μm以上)はプレフィルターで容易に捕集できますが、サブミクロン領域の微細粉塵は高性能なフィルターや静電集塵が必要になります。
厨房排気の油煙、金属加工時の切削油ミスト、下水処理施設の飽和水蒸気などが該当します。
液体ミストは粉塵と異なりフィルター表面に粘着して膜状に広がるため、一般的なプレフィルターでは捕集しきれず、デミスター(ミストエリミネーター)や電気集塵機による専用の除去が求められます。
塗装工程やゴム・樹脂加工、焙煎プロセスなどから排出される、常温では半固体または粘着性の高い有機物質です。
これらが脱臭ろ材の表面に堆積すると、洗浄しても性能が回復しないケースが多く、もっとも対策が難しい同伴物質です。
前処理技術は「何を除去するか」によって選択する装置が異なります。以下に、業務用・産業用の排気脱臭で使われる代表的な前処理装置を紹介します。
もっとも基本的な前処理装置です。不織布や金属製のメッシュをフレームに収めた構造で、排気中の比較的大きな粉塵や繊維くずを物理的にふるい落とします。
導入コストが安く交換も容易ですが、微細な粒子やオイルミストの除去能力は限定的です。多くの脱臭装置メーカーが標準的にプレフィルターを内蔵していますが、油煙や微粉塵の多い現場ではこれだけでは不十分な場合があります。
飲食店や食品工場の厨房排気で広く使用される前処理装置です。アルミやステンレスの金属板を波形に重ね、排気が板に衝突する際の慣性力で油滴を分離・回収します。
捕集した油はフィルター下部のドレンから自動的に排出される構造で、定期的な洗浄により性能を回復できます。グリスフィルターの前処理は、厨房用脱臭装置を導入する際の前提条件といえます。
金属ワイヤーを編み込んだメッシュ状の充填層に排気を通し、慣性衝突の原理で微細な液滴を捕集する装置です。
捕集された液滴はワイヤー表面で成長し、自重で下方へ落下して排出されます。下水処理施設の飽和水蒸気や、スクラバー後段の水ミスト除去などに使われ、水分に弱い活性炭やゼオライト系ろ材を保護するための必須装置です。
排気中の粒子に高電圧で電荷を与え、反対の電荷を持つ集塵板に引き寄せて捕集する装置です。
サブミクロンの微細オイルミストや煤塵の捕集に優れ、大型の商業施設やフードコートの集合排気ダクトで脱臭装置の前処理として設置されるケースが増えています。フィルター交換が不要で、電極板の洗浄で性能を回復できるためランニングコストを抑えやすい利点があります。
排気を旋回させ、遠心力によって粒子を壁面に押しつけて分離する装置です。
比較的粒径の大きい粉塵(数十μm以上)の大量処理に適しており、産業廃棄物処理施設の破砕ラインなどで脱臭装置の前段に設置されています。可動部がないため故障が少なく、メンテナンスコストが低いのが特徴です。ただし微細な粒子の捕集は不得意なため、脱臭装置の保護にはプレフィルターとの併用が推奨されます。
以下の表は、排気に含まれる主な同伴物質と、メインの脱臭方式に応じた前処理装置の推奨例をまとめたものです。
自社の排気の性質と導入予定の脱臭方式を照らし合わせて、必要な前処理の構成を検討する際の目安としてご活用ください。
| 主な同伴物質 | 活性炭・ゼオライト系 | 燃焼式・触媒式 | スクラバー(湿式洗浄) | 中和消臭(気化・噴霧式) |
|---|---|---|---|---|
| 粉塵・煤塵 | 粗塵プレフィルター + 高効率フィルター(必須) | 耐熱性プレフィルター(重金属・不燃物除去) | 簡易スクリーン程度で可(液が洗い流す) | 通常不要(ガス気化式のため影響小) |
| オイルミスト・油煙 | グリスフィルター + デミスター or 静電集塵(必須) | 前段の燃焼で同時処理が可能な場合あり | 液が油分を洗い落とすため対応可 | 通常不要 |
| 水ミスト・飽和水蒸気 | デミスター + ダクト予熱ヒーター(必須) | 予熱用熱交換器(燃焼前に気化) | 不要(湿式のため親和性が高い) | 通常不要 |
| タール・ガム状物質 | 多段式デミスター + 自動清掃機構付きフィルター(必須) | 高温で同時に熱分解される場合あり | 薬液で溶解・洗浄可能な場合あり | 通常不要 |
この表からわかるように、活性炭やゼオライト系の吸着方式は、同伴物質の影響をもっとも受けやすいため、前処理設計の重要度がとりわけ高くなります。一方、中和消臭方式(ダクト内へ気化した消臭剤を投入する方式)は、フィルター構造を持たないため同伴物質の影響を受けにくく、前処理負担が小さい特徴があります。
前処理機構の導入形態には、大きく2つの選択肢があります。
脱臭装置のハウジング内にプレフィルターやデミスター機構があらかじめ組み込まれたタイプです。
ダクト配管がシンプルになり、設置スペースの節約や施工工数の削減につながります。「除塵と脱臭を1台で同時に行いたい」という現場に向いています。
ただし、前処理ユニットの性能や交換部材の仕様がメーカー固有となるため、汎用部品への置き換えが難しい場合があります。
メインの脱臭装置とは別に、前処理装置を独立したユニットとしてダクトラインに追加するタイプです。
排気の性質や負荷に応じて前処理の種類・段数・容量を自由にカスタマイズできるため、排気条件が厳しい現場や、将来的に処理対象が変わる可能性がある現場に適しています。
一方で、設置スペースとダクト延長が追加で必要になるほか、前処理装置自体による圧力損失の増加を考慮して排気ファンのスペックを見直す必要があります。
脱臭装置の導入において、前処理フィルターや前処理装置は「付加的なオプション」ではなく、脱臭システム全体の性能と寿命を左右する必須のインフラです。
排気に含まれる粉塵・オイルミスト・水分・タールなどの同伴物質を事前に把握し、その性質に合った前処理技術を選定することが、フィルター交換コストの抑制と安定した脱臭効果の維持に直結します。
当メディアでは、脱臭装置に関する基礎知識を他にも多数掲載しています。メーカー選びの判断材料として、ぜひ参考にしてください。
導入場所とにおいの特性に着目し、それぞれの課題に適したおすすめの脱臭装置を紹介します。「種類が多くて、何が違うのかわからない」そんな方こそ、自分の現場に適した脱臭装置選びにお役立てください。

設置場所
排気ダクト
対応できる臭い
調理油/魚類/肉類/揚げ物/煮炊き排気/生ゴミ/カビ/硫化水素/スチレン/硫化メチル
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | 605×400× 1000~820× 570×1400(mm) |
|---|---|
| 重量(kg) | 35~92 |
消臭成分が調理臭や油煙臭などと反応し、無臭物質へ変化させる。反応しきらない微量臭も、植物精油の香調により心地よい香りとなり効果を実感しやすい。
15種類の消臭剤が、水産加工から焼き菓子まで、食品の臭気に幅広く効果を発揮。植物由来の消臭成分で安全性が高く、厳しい安全・衛生管理基準もクリアする。

設置場所
乾燥炉排気・反応槽ベントライン など
対応できる臭い
香料/樹脂/フェノール/キシレン/酢酸ブチル/コーティング機排気/酢酸エチル/シアン化水素/アンモニア/1,2,4-トリメチルベンゼン
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | - |
|---|---|
| 重量(kg) | - |
VOCや悪臭成分を化学反応で無害・無臭に変換。微量のシリコンやリンを含む排ガスも前処理で対応可能で、触媒毒を含む化学・薬品工場でも使える。
装置内部の空気を外に逃げにくい状態に保つことで、ダクト接続部からの臭い漏れを防止。揮発性の強い化学物質を扱う場合でも周囲環境への影響を抑える。

設置場所
屋外または既存脱臭槽内
対応できる臭い
高濃度アンモニア/硫化水素/硫黄系臭気
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | 6~12×9 (54~108㎡) |
|---|---|
| 重量(kg) | - |
堆肥化・発酵工程から発生する硫化系臭気や3,000ppmクラスの高濃度アンモニアへ対応。強臭環境においても、安定した脱臭性能を発揮する。
微生物の力で分解するため、燃焼系設備のような高エネルギー消費が不要。さらに低圧ブロワ採用で電力消費を抑制し、24時間連続運転でもコストを抑える。