テナントビルの管理規約や建物構造の制約により、外壁へのダクト貫通工事ができない環境は少なくありません。
そのような現場で注目されているのが、排気配管を建物外部に接続せず、装置内部で有害ガスや臭気を処理してクリーンな空気を室内に戻す「ダクトレス型」の脱臭装置です。
本記事では、ダクトレス脱臭装置の基本構造やメリット・限界、そしてダクト排気型との使い分けの判断基準を解説します。
ダクトレス脱臭装置とは、排気を建物の外部に排出するためのダクト配管を必要とせず、装置本体に内蔵されたフィルター群で臭気成分や有害ガスを捕捉・分解し、処理後の空気をそのまま室内に還流させる方式の装置です。
研究室や分析室で使われる「ダクトレスヒュームフード」が代表的な製品形態ですが、ネイルサロンや歯科技工所、小規模な溶剤作業スペースなど、局所的な臭気処理を目的とした業務用のスタンドアロン型脱臭装置も同じ原理で動作します。
ダクトレス脱臭装置は、一般的に以下の多段フィルター構成で排気を段階的に浄化します。
粉塵や大きな粒子を最初に捕集し、後段のメインフィルターへの負荷を軽減します。不織布や金属メッシュ製で、定期的な清掃または交換が必要です。
臭気やガス状の有害物質を物理吸着または化学吸着で除去する中核ユニットです。
対象ガスの種類(酸性・アルカリ性・有機溶剤系など)によって、適切な添着剤を施した活性炭フィルターやケミカルフィルターを選定する必要があります。
微細な粒子を捕集する高性能フィルターで、処理済みの空気の清浄度を高めてから室内に還流させます。HEPAフィルターの搭載により、粉塵やエアロゾルの室内拡散を防ぎます。
これらのフィルターを直列に配置し、装置の開口部(フード面)で所定の吸込風速を維持することで、有害物質の外部漏洩を防ぎながら室内の空気質を管理するしくみです。
ダクトレス脱臭装置には、設置環境の制約を解消する以下のメリットがあります。
外壁への穴あけ工事、排気筒の立上げ、屋上への配管延長といった大規模な工事が一切不要です。
コンセント接続だけで稼働可能な機種も多く、テナントビル内での原状回復義務がある環境でも、退去時の撤去コストを気にせず導入できます。
装置がダクトに縛られないため、作業場所の変更や設備レイアウトの見直しに柔軟に対応できます。
研究テーマの変更に伴って作業場所が変わる大学・研究施設などでは、この可搬性が大きな利点になります。
ダクト排気型は室内の空調された空気を外部に排出するため、冷暖房のエネルギーロスが発生します。
ダクトレス型は処理した空気を室内に戻すため、空調のランニングコストを抑えながら脱臭を行えます。
ダクトレス脱臭装置は導入の手軽さが魅力ですが、室内に空気を循環させるという構造上、ダクト排気型とは異なる安全管理上のリスクを伴います。
ダクトレス型は装置内蔵のフィルターで処理するため、一度に処理できる風量には物理的な限界があります。大風量や高濃度の臭気が連続的に発生する工場排気などには対応が難しく、小風量・低〜中濃度の局所的な発生源への適用が基本となります。
ダクト排気型であれば、フィルターの捕集能力が多少低下しても臭気は屋外に排出されます。しかしダクトレス型では、フィルターが飽和すると処理しきれなかったガスがそのまま室内に放出されるため、フィルターの交換時期管理がより厳密に求められます。
多くの装置にはフィルター寿命を検知するモニタリング機能が備わっており、この安全機構の有無は選定時の重要な確認項目です。
排気を外部に排出しないため、作業中に発生する熱や水蒸気が室内にこもりやすくなります。
発熱量や蒸発水分が多い工程で使用する場合は、別途空調や換気との連携設計が必要です。
フィルターで捕集・分解できないガスや、フィルターと反応して発熱するガス(一部の有機溶剤と活性炭の組み合わせなど)が存在します。
使用する薬品やガスの種類をメーカーに事前に確認し、対応可能なフィルターが存在するかどうかを必ず検証してから導入することが重要です。
ダクトレス型であっても、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則の対象となる薬品を処理する目的で使用する場合、労働安全衛生法に基づく設置届出(工事開始30日前までに労基署へ届出)や、年1回の定期自主検査とその記録の3年間保存が義務付けられるケースがあります。
また、室内循環方式で有機溶剤業務を行うには、原則として厚生労働省の「発散防止抑制措置特例実施許可」を所轄の労働基準監督署長から取得する必要があり、対象溶剤の種類や使用量、装置の排風量などに一定の制限が設けられています。導入前に所轄の労基署や専門メーカーへ相談し、法的手続きを確認しておくことを推奨します。
「ダクト工事ができないからダクトレスを選ぶ」という消去法だけでなく、処理能力や安全管理の観点から両方式の特性を理解したうえで選定することが重要です。
| 比較項目 | ダクトレス型 (室内循環方式) |
ダクト排気型 (屋外排出方式) |
|---|---|---|
| ダクト工事 | 不要 | 必要(壁貫通・排気筒設置) |
| 処理風量 | 小風量向き(局所排気) | 小〜大風量まで対応可能 |
| 対応濃度 | 低〜中濃度 | 低〜高濃度(方式による) |
| 空調への影響 | 小さい(空気を室内に戻す) | 大きい(空調された空気を排出) |
| 安全管理の難度 | 高い(フィルター飽和時のリスク管理が必須) | 中程度(排出口の位置・高さ管理が中心) |
| レイアウト柔軟性 | 高い(移設・増設が容易) | 低い(ダクトの位置に依存) |
| 法規制への対応 | 有機溶剤等を扱う場合、特例実施許可の取得が必要な場合あり | 局所排気装置として標準的な法令適合が可能 |
| 適する用途 | テナント内作業、分析・検査室、小規模溶剤作業 | 工場排気、大規模厨房、法令で排出口高さが規定される施設 |
法令により排出口の高さ制限や臭気の総量規制が適用される施設では、臭気を処理した上で屋外の高所から排出するダクト排気型が原則となります。
一方で、「局所的に発生するガスをその場で素早く処理したい」「ダクト工事が物理的にできない」という現場では、ダクトレス型が有力な選択肢です。
ダクトレス脱臭装置は、ダクト工事が不可能な環境における臭気対策の有力な手段です。
導入の手軽さとレイアウトの自由度が大きなメリットですが、室内に空気を戻す構造上、フィルター管理と漏洩検知を含めた安全設計への配慮が不可欠です。
処理風量や対象ガスが装置の適用範囲に収まるかどうかを事前に確認し、必要に応じてメーカーのデモテストを活用することで、導入後のミスマッチを防ぐことができます。
当メディアでは、脱臭装置に関する基礎知識を他にも多数掲載しています。メーカー選びの判断材料として、ぜひ参考にしてください。
導入場所とにおいの特性に着目し、それぞれの課題に適したおすすめの脱臭装置を紹介します。「種類が多くて、何が違うのかわからない」そんな方こそ、自分の現場に適した脱臭装置選びにお役立てください。

設置場所
排気ダクト
対応できる臭い
調理油/魚類/肉類/揚げ物/煮炊き排気/生ゴミ/カビ/硫化水素/スチレン/硫化メチル
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | 605×400× 1000~820× 570×1400(mm) |
|---|---|
| 重量(kg) | 35~92 |
消臭成分が調理臭や油煙臭などと反応し、無臭物質へ変化させる。反応しきらない微量臭も、植物精油の香調により心地よい香りとなり効果を実感しやすい。
15種類の消臭剤が、水産加工から焼き菓子まで、食品の臭気に幅広く効果を発揮。植物由来の消臭成分で安全性が高く、厳しい安全・衛生管理基準もクリアする。

設置場所
乾燥炉排気・反応槽ベントライン など
対応できる臭い
香料/樹脂/フェノール/キシレン/酢酸ブチル/コーティング機排気/酢酸エチル/シアン化水素/アンモニア/1,2,4-トリメチルベンゼン
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | - |
|---|---|
| 重量(kg) | - |
VOCや悪臭成分を化学反応で無害・無臭に変換。微量のシリコンやリンを含む排ガスも前処理で対応可能で、触媒毒を含む化学・薬品工場でも使える。
装置内部の空気を外に逃げにくい状態に保つことで、ダクト接続部からの臭い漏れを防止。揮発性の強い化学物質を扱う場合でも周囲環境への影響を抑える。

設置場所
屋外または既存脱臭槽内
対応できる臭い
高濃度アンモニア/硫化水素/硫黄系臭気
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | 6~12×9 (54~108㎡) |
|---|---|
| 重量(kg) | - |
堆肥化・発酵工程から発生する硫化系臭気や3,000ppmクラスの高濃度アンモニアへ対応。強臭環境においても、安定した脱臭性能を発揮する。
微生物の力で分解するため、燃焼系設備のような高エネルギー消費が不要。さらに低圧ブロワ採用で電力消費を抑制し、24時間連続運転でもコストを抑える。