印刷工場における臭気対策は、インキを希釈・乾燥させる工程で発生するVOC(揮発性有機化合物)の排出を抑制し、近隣住民との良好な関係を維持する上で避けては通れない最重要課題です。
本記事では、工場長や生産管理担当者の方に向けて、印刷現場の課題に即した脱臭方法や、発生成分ごとの特徴について詳しく解説していきます。工場の安定操業と労働環境の改善、周辺地域への配慮の両立に、ぜひお役立てください。
| 設置場所 | 電線製造工場 (製品印字・マーキング工程排気) |
|---|---|
| 臭気対象 | インクジェット印刷時に揮発するインク臭 (主にメチルエチルケトン) |
| 脱臭方法 | 活性炭吸着脱臭 (吸着脱臭フィルター KCF-60FL・特注仕様) |
製品表面にロット番号等を高速印字するインクジェットプリンター(印字・マーキング工程)での対策事例です。印刷工場における各種バリアブル印刷(日付・可変情報の印字)でも極めて一般的に使用されている「メチルエチルケトン(MEK)」を主成分としたインク臭の対策として、局所排気系統へ脱臭装置を導入しました。
インキのノリや速乾性を維持するために多量に使用されるMEKは、特有のツンとする強いにおいを放ちます。新設されたこの局所排気ダクトをそのまま大気放出すると周辺住民への臭気影響が懸念されたため、大がかりな電気設備などを必要とせず、限られたダクトスペース内にコンパクトに設置できる確実な脱臭装置が求められていました。
局所排気の経路(処理風量60m3/minの系統)に、ダクトの中間に違和感なく直結できる特注仕様の吸着脱臭フィルター「KCF-60FL」を設置しました。限られた敷地を圧迫しないスマートな配置を実現し、脱臭剤には有機溶剤に対して極めて高い吸着容量を持つ「デオケムC」を採用しました。
点検扉を外すだけで、引き出し式のパレットに脱臭剤を手軽に充填できる仕様のため、6ヶ月に1回を目安とする定期メンテナンスも現場の負担になりません。活性炭でのろ過処理に加え、ダクトを工場屋上まで延長して効果的に大気拡散させることで、周辺住宅地へのインク臭の漏洩を防ぎ、苦情を未然に防止することに成功しました。

| 設置場所 | 印刷工場 (蓄熱式燃焼装置・二次側排気) |
|---|---|
| 臭気対象 | 乾燥・燃焼時に発生する有機溶剤臭 (酢酸、トルエン、キシレンなど) |
| 脱臭方法 | 消臭剤スクラバー脱臭装置 (ハイブリッドスクラバー®TypeW) |
印刷工場において、特定の作業時に乾燥工程からの排気臭が強まり、既存の蓄熱式燃焼装置(脱臭炉)を通しても臭気が取りきれない課題を抱えていました。未分解のトルエンやキシレン、酢酸などの複合臭が敷地境界を越えて最大200m先まで飛散し、近隣苦情の原因となっていました。
燃焼装置の二次側排気は温度が約220℃と極めて高温であり、そのままでは消臭剤を噴霧しても瞬時に気化・熱分解してしまい効果を発揮できません。大風量(800CMM)かつ高温という特殊な排気条件をクリアしながら、敷地境界で無臭レベルを達成できる追加の対策工法が必要とされていました。
事前のデモテストと拡散シミュレーションを実施し、消臭剤の適正稼働温度である60℃以下まで下げるため、排気ダクト内に冷却用ノズルを増設。排気温度を急冷させた上で消臭剤(マイクロゲルS-B1+N)をダクト内にスプレー噴霧するシステムを構築しました。
ダクトスプレーシステムは、他方式の大型脱臭装置に比べて省スペースかつ圧倒的に低い初期コストで大風量(800CMM)に対応できる点が大きなメリットです。実機稼働後は入口濃度2,500に対し出口400(脱臭効率84%)をマークし、敷地境界線での無臭化を達成。苦情を完全に解決することに成功しました。

| 設置場所 | UV印刷工場 (UV印刷工程・排気系統) |
|---|---|
| 臭気対象 | UVインク乾燥時に発生する有機溶剤臭(VOC) |
| 脱臭方法 | 消臭剤スプレー装置 (マイクロゲルスプレーシステム) |
各種印刷製品を加工するUV印刷工程での対策事例です。UVインキを乾燥させる際に発生する特有の有機溶剤臭(VOC)が、道路を挟んですぐ向かい側にある住宅地へと漂ってしまい、近隣住民から頻繁に苦情が発生していました。迅速な解決が必要とされる一方で、多大なコストをかけて排気システム全体を刷新することは避けたいというご要望がありました。
排気風量は約120CMMと比較的扱いやすい規模ではありましたが、狭小な立地のため大型の活性炭装置などを設置する敷地的な余裕はありません。そこで、既設のダクトや設備をそのまま有効活用しながら、イニシャルコスト・ランニングコストを徹底的に抑えて対策できる工法が模索されました。
排気ダクトの一部が建物内を通るレイアウトに着目し、その室内の経路を活用して「マイクロゲルスプレーシステム」を導入しました。排気が室内を通過するエリアで消臭剤をダイレクトに噴霧する構造をとることで、屋外ダクトの大がかりな引き回し工事を回避し、初期導入費用を極限まで低く抑えることに成功しました。
風量に合わせた省スペースな小型スプレーユニットを設置し、無駄のない最適なタイミングで噴霧制御を行う設計にしています。導入後は、入口の臭気濃度5,000から出口では1,600(脱臭効率68%)へと低減。近隣の住宅エリアへのインク臭の回り込みをシャットアウトし、苦情を無事に解決しました。
多孔質で強力な吸着力を持つ活性炭フィルターを用いて、排気中に含まれる有機溶剤(VOC)分子を物理的にトラップする装置です。印刷ラインから排出される中〜低濃度のシンナー臭や、多種多様な溶剤が入り混じった複合臭に対して極めて優れたコストパフォーマンスと高い汎用性を発揮します。
設備がシンプルであるため初期費用を低く抑えられ、既存ダクトへの後付けや省スペースでの設置も容易です。ただし、稼働時間やVOC排出量に応じて活性炭が飽和に達するため、安定した脱臭性能を維持するには定期的なフィルターの交換メンテナンス計画を立てることが不可欠です。
グラビア印刷などの大型乾燥炉から排出される高濃度の有機溶剤ガスを、高温で直接または触媒を介して酸化燃焼させ、無害な水と二酸化炭素に完全分解する装置です。高濃度かつ大風量の乾燥排気に対して、99%以上の圧倒的な脱臭効率を誇り、臭気を根本からシャットアウトします。
燃焼にともなうガス代などのランニングコストや高額な初期費用がネックとなりますが、排気から熱を回収して乾燥炉の熱源として再利用するシステムを導入することで、工場全体のエネルギー消費効率を最大化させ、ランニングコストを最適化することが可能です。
排気ダクト内へ気化した専用の消臭剤をダイレクトに噴霧・注入し、揮発した溶剤臭(インキ臭)と気相中で化学反応させてにおいを中和・無臭化するシステムです。大がかりな脱臭フィルターを導入するスペースが屋外にない場合や、既存ファンの静圧に余力がなく圧損を増やせない系統への対策に最適です。
機器本体が非常にコンパクトであるため、狭いデッドスペースにも柔軟に設置でき、設置にともなう生産ラインの長期停止も必要ありません。複雑な制御がなく日常的な管理が容易なため、初期コストを抑えつつ迅速に近隣住民への苦情対策を実施したい現場で高く評価されています。
印刷工場の排気対策を安定して継続させるためには、脱臭装置の手前(一次側)で行う前処理が極めて重要な役割を果たします。印刷工程の排気には、紙の裁断や搬送時に発生する微細な「紙粉(しふん)」や、高速回転するロールから飛散する「インキミスト」が多量に含まれています。
これらが未処理のまま脱臭装置へ流入すると、活性炭の細孔を瞬時に塞いで目詰まりさせたり、燃焼装置の触媒に付着して性能を低下(被毒)させたりします。脱臭効率の急激な低下を招くだけでなく、ダクト火災のリスクも高まるため、前段に高性能な紙粉フィルターやミストフィルターを設置することが必須です。
印刷工場の悩みを解決する
脱臭装置の選び方
重要なのは臭気に合った脱臭装置を選ぶことです。グラビア印刷やオフセット印刷、シルクスクリーン印刷など、印刷方式や使用するインキ(溶剤性・水性・UV)によって最適な対策は異なります。
ただし、目に見えない臭気成分を正確に特定するのは難しいため、臭気の発生場所に合った脱臭装置を選ぶのがおすすめです。
当メディアでは、臭気成分がよく分からないという方でも選びやすいよう、導入場所別におすすめの脱臭装置を厳選しました。食品工場におすすめの脱臭装置も調査していますので、現場に合った製品選びの材料としてご活用ください。
主に包装フィルムなどのグラビア印刷において、インキの希釈溶剤として極めて広く使用されている物質です。甘酸っぱい特有の果実臭(刺激臭)があり、揮発性が非常に高いため、乾燥工程だけでなく印刷機の周辺からも容易に気化して工場内外へ拡散しやすい性質を持っています。
においの検知閾値(しきいち)が非常に低く、ごく微量でも周辺ににおいが漂いやすいため、活性炭吸着による確実な回収や、燃焼式脱臭装置による熱分解によって、大気中への排出濃度を大幅に低減させる必要があります。
かつてグラビア印刷やラミネート工程のインキ・接着剤用溶剤として多用され、強いシンナー臭の元凶となってきた代表的な有機溶剤です。ツンとした強力な刺激臭を放ち、人体や環境への有害性が高いため、現在ではPRTR法や労働安全衛生法などによって最も厳格な排出規制が敷かれています。
代替溶剤への移行が進んでいますが、依然として使用されている現場では、周辺住民からの苦情を防止し操業安全を確保するため、複数層の活性炭吸着や燃焼式装置による徹底した除去管理が必須です。
速乾性インキの希釈や機械・版の洗浄用溶剤として頻繁に使用される有機溶剤です。ケトン系特有のツンとする不快な刺激臭を持ち、トルエンと同様に空気中への発散速度が早いため、特にインキの調合室やロールの洗浄作業時に高濃度で揮発する傾向があります。
労働環境の悪化を招きやすく、周辺に漏洩した際も苦情の原因になりやすい成分であるため、排気風量や排出濃度に合わせて、活性炭吸着や気液接触方式による確実な脱臭処理が必要となります。
オフセット印刷(平版印刷)において、インキのノリを均一にするための「湿し水(しめしみず)」の添加剤として広く使用されています。アルコール特有の鼻を刺すようなにおいがあり、比較的低い温度でも揮発するため、印刷室全体に独特の化学薬品臭が充満する原因となります。
グラビア印刷ほどの超高濃度にはなりにくいものの、長時間にわたり安定して排出されるため、ダクト末端へのコンパクトな活性炭吸着装置の設置や、水によく溶ける性質を活かしたスクラバー処理などが有効です。
他にも、場所(施設)ごとに脱臭装置の導入事例、発生しやすい臭気の種類、効果的な脱臭方法などをまとめています。自社が管理している施設のジャンル(または類似ジャンル)の記事をご一読ください。
導入場所とにおいの特性に着目し、それぞれの課題に適したおすすめの脱臭装置を紹介します。「種類が多くて、何が違うのかわからない」そんな方こそ、自分の現場に適した脱臭装置選びにお役立てください。

設置場所
排気ダクト
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | 605×400× 1000~820× 570×1400(mm) |
|---|---|
| 重量(kg) | 35~92 |
消臭成分が調理臭や油煙臭などと反応し、無臭物質へ変化させる。反応しきらない微量臭も、植物精油の香調により心地よい香りとなり効果を実感しやすい。
15種類の消臭剤が、水産加工から焼き菓子まで、食品の臭気に幅広く効果を発揮。植物由来の消臭成分で安全性が高く、厳しい安全・衛生管理基準もクリアする。

設置場所
乾燥炉排気・反応槽ベントライン など
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | - |
|---|---|
| 重量(kg) | - |
VOCや悪臭成分を化学反応で無害・無臭に変換。微量のシリコンやリンを含む排ガスも前処理で対応可能で、触媒毒を含む化学・薬品工場でも使える。
装置内部の空気を外に逃げにくい状態に保つことで、ダクト接続部からの臭い漏れを防止。揮発性の強い化学物質を扱う場合でも周囲環境への影響を抑える。

設置場所
屋外または既存脱臭槽内
| 寸法 (mm/幅・奥行・高さ) | 6~12×9 (54~108㎡) |
|---|---|
| 重量(kg) | - |
堆肥化・発酵工程から発生する硫化系臭気や3,000ppmクラスの高濃度アンモニアへ対応。強臭環境においても、安定した脱臭性能を発揮する。
微生物の力で分解するため、燃焼系設備のような高エネルギー消費が不要。さらに低圧ブロワ採用で電力消費を抑制し、24時間連続運転でもコストを抑える。