製紙工場で問題となる臭いは、どの工程で発生するのか?臭いの種類とその対策についてまとめています。
製紙工場における、もっとも強い臭気の原因は、クラフトパルプの製造工程で発生する硫化物です。クラフトパルプとは、木材チップを苛性ソーダで煮て、木材中の繊維を取り出し、その繊維を薬品で漂白して生成したもので、白いノート用紙やコピー用紙、紙袋などに用いられています。
木材には、セルロースやヘミセルロース、リグニンなどの成分が含まれていますが、リグニンは親水性が低く、この成分が紙に残ってしまうと紙そのものを弱くしたり、光や酸素に触れると変色したりするため、パルプを生成する際に除去されます。このリグニンを除去するために、水酸化ナトリウムや硫化ナトリウムなどの薬品が使用されるのですが、この硫化ナトリウムには硫黄原子が含まれています。それがセルロースなどの炭化水素と化合するなどの化学反応を起こし、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルなどさまざまな硫黄系の悪臭物質が形成されるため、臭いが発生するといわれています。ちなみに、メチルメルカプタンは腐った玉ねぎ、硫化メチルや二硫化メチルは腐ったキャベツのような臭いがするといわれます。
リグニンを取り除いた液は燃料として燃やされ、その熱を利用して乾燥や発電に利用されます。さらにその燃え残りから水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを回収して再利用できるので、クラフトパルプの製造自体は効率のいい作業なのですが、悪臭の発生という大きな問題が残ります。
古紙から再生紙を作る場合、古紙の時に使われていたインクやごみなどを洗浄する工程があります。この工程で発生する、白く濁った水は「白水」と呼ばれ、この中には繊維くずなどの浮遊物が含まれています。この水は曝気槽(ばっきそう)で微生物によって分解されてきれいになるのですが、この微生物によってスライム(粘液状のバイオフィルム)が発生しやすくなります。このスライムによって悪臭が発生する場合があります。
紙の表面にデンプンなどを塗布して水に対する耐性を施す「サイズプレス」の工程においても、臭いが出る場合があります。塗布するデンプンが腐敗すると悪臭が起こることがあるのですが、デンプンの腐敗の原因は、微生物によるものだといわれています。
古紙からトイレットペーパーなどの再生紙を生成する際、紙にならずに排水中に流失した短繊維や無機物を濃縮し、脱水した廃棄物が産出されます。これは「ペーパースラッジ」と呼ばれるもので、燃料として再利用することができるのですが、排水には、紙を作る工程で使用されたさまざまな薬剤が含まれています。そのため、空気が届きにくいところに保管されたペーパースラッジは、嫌気呼吸を行い、腐敗するため悪臭を放つことも。
硫化イオンが含まれた排水は微生物によって硫化水素が発生したり、デンプンに有機酸が発生したり、アミノ酸やレシチンなどの窒素系化合物やカビなどによってアンモニアやトリメチルアミンなどの窒素系悪臭が発生することがあります。
ほとんどの製紙工場では、悪臭を発生する成分に対し、漏洩防止、補修、濃縮・焼却等の装置を設置して、それぞれ対策をとっています。また、定期的に工場構内の臭気発生設備周辺の臭気を測定し、漏洩防止の監視を行っています。
工場を密閉化したり、高所で排気を行うなど、物理的な漏洩防止対策を行っていたとしても、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルなどは、わずかな漏洩でも近隣への悪臭被害となる可能性があるため、充分、注意が必要です。
白水処理やサイズプレスの工程で発生する臭いに対しては、スライムの生成を抑えるスライムコントロール剤を添加したり、防腐剤を添加したり、休転時に工程洗浄を行い、スライムを除去するなどの方法が有効です。
排水の処理による悪臭に対しては、ペーパースラッジの保管場所に注意して腐敗するのを防ぐほか、悪臭を分解する消臭剤を排水に混ぜたり、放出した悪臭に対して消臭剤を散布するなどの方法もあります。
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