人がにおいを感じるメカニズムから悪臭防止法による悪臭対策、畜産業、製紙工場、食品工場、下水処理など、悪臭問題を抱えている業界の悪臭対策について紹介します。
におい、匂い、臭い。表記の仕方はいろいろありますが、一般的に「匂い」は人間に快感を与えるいいにおい、「臭い」は不快なにおい、「におい」は「匂い」も「臭い」もすべてを含む総称と捉えられています。
では、人間はどのようにしてにおいを感知しているのでしょうか。
鼻から入ったにおいの分子は、鼻腔最上部にある嗅上皮と呼ばれる特別な粘膜に溶け込んで感知されます。すると、嗅上皮にある嗅細胞が電気信号を発生、電気信号が嗅神経、嗅球、脳(大脳辺縁系)へと伝達し、においの感覚が起きるといわれています。
嗅上皮の粘膜槽にある嗅毛には、においをキャッチする嗅覚受容体、つまりにおいセンサーがあり、ひとつのにおい分子に対して、いくつかのにおいセンサーが反応してにおいを検知します。においの濃度が変わると反応するにおいセンサーの組み合わせが変わり、違うにおいとして感知されます。
ヒトには約400種類のにおいセンサーがあるといわれ、その組み合わせは無限です。そのため、数十万種類のにおい物質をかぎ分けることができるといわれています。
悪臭は、「悪臭防止法」によって規制されています。悪臭防止法は1971年、事業活動に伴い悪臭を発生している工場や事業場に対して必要な規制を行い、悪臭防止対策を推進させて住民の生活環境を守ることを目的として制定されました。
工場や事業場から発せられる悪臭は、「特定悪質物質の濃度」または「臭気指数」によって規制され、悪臭対策を怠ると罰則が適用されます。
悪臭公害の主要な原因となっている物質として、以下の特定悪臭物質(22物質)が指定されています。都道府県知事や、市および特別区の長が当該地域または当該区域の実情に応じて、臭気強度2.5~3.5の範囲内で敷地境界線上の規制基準を定めます。
臭気指数規制は、悪臭苦情に対応した規制として、1995年に悪臭防止法に導入されました。臭気指数とは、人間の嗅覚を用いて悪臭の程度を数値化したもので、試料を、臭気が感じられなくなるまで無臭空気で希釈した時の希釈倍率(臭気濃度)に10を掛けた数値で表されます。
においがある物質は40万種類以上あるといわれ、におい物質が混じり合っていると相加・相乗効果が起こってしまうことがあり、機器では、人々が実際に感じている通りには測定することはできません。そのため、においを総合的に評価する臭気指数規制が用いられます。
臭気指数による規制は
という特徴が挙げられます。
畜産業界の3大臭気と呼ばれるのが、牛舎・豚舎・鶏舎などの畜舎から発生する悪臭、堆肥舎や排水処理施設などのふん尿処理時に発生する悪臭、牛の飼料であるサイレージから発生する悪臭です。畜産業における臭気は、高濃度かつ大風量であり、それぞれの臭いには特徴があります。その特徴に合わせて対処することが、悪臭対策のポイントになります。
製紙工場では、その製造工程において、それぞれ臭いが発生する可能性があります。なかでも、もっとも強い臭気の原因となるのが、クラフトパルプ製造工程で発する硫化物。パルプを生成する際、リグニンを除去するために用いられる薬品には硫黄原子が含まれており、それが他の物質と化学反応を起こして硫化物を発生させ、悪臭を放つといわれています。このほか、洗浄工程で利用されている微生物が原因となって発生する臭いや、排水処理時に発生する臭いもあります。
食品工場は、取り扱う食材によってさまざまなにおいを発します。大量の食材を濃縮して扱っていることもあり、臭いが強くなる傾向にあるといわれています。一瞬であればいいにおいと感じるものも、毎日、長時間かいでいると不快に感じてしまうこともありますし、食材のにおいは人によって快不快に差があるので、悪臭対策が難しい案件のひとつでもあります。
食品工場は稼働時間が長いので、大掛かりな装置を導入すると、膨大なランニングコストがかかってしまう可能性もあるので注意が必要です。
下水処理の悪臭については、多くの苦情が寄せられています。下水処理の悪臭の大半は、ビルなどに設置されている貯水槽「ビルピット」によるもの。ビルピットに溜められた汚水が時間の経過とともに腐敗し、硫化水素が発生することで悪臭を放つのです。
ビルピットの悪臭対策としては、定期的な清掃を行うこと、ビルピットの有効容量を減らして、こまめにポンプアップさせること、曝気・撹拌装置を取り付けて水に酸素を送り込み、排水槽内の水の腐敗を防ぐことなどが挙げられます。